久美子が家を出てからの27年間―
「まつだや屋」を開けない日は
一日も無かったという正さん。
蒸し器の湯気がほわほわと立ち昇り
朝の柔らかな光が射し込む工房で…
優太と2人、
その楽しいお散歩の幸せな時間を噛み締めながら
正さんは、倒れてしまいました…
🌸前回のお話🌸
空の木箱を見つめる久美子の顔が曇る。
何度見ても、空っぽのまま…
ため息も出ないほど
久美子は途方に暮れていた。
と、その時・・
恐る恐る開けられた扉の向こうには
大輔の心配そうな顔。
久美子「あぁ…」
大輔「親父さん…倒れたんだって?」
いつになく強張った顔の大輔。
久美子「ああ…。 うん…」
大輔「大変だったな…」
久美子の顔をちらりと見たきり
まともに、その顔を見れない大輔。
大輔「右腕だった佐藤さんが辞めてから…
一人でこの「まつだや屋」を守って来たのが 仇になったなぁ…」
久美子「…」
久美子「(思いついて)そう言えば…
【大須五番街計画】の討論会…
代わりの人、いるの…?」
大輔「いるよ…」
久美子「ああ…良かったぁ…」
大輔「…俺だよ。」
久美子「大輔が~?」
大輔「うん…」
久美子「アンタ、人前で喋るの苦手じゃん!!」
大輔「ん…」
久美子「国語の授業も"噛み噛み"だったし…」
大輔「バカっ!」
初めて久美子を見る大輔。
久美子「…!!」
大輔「何歳(いくつ)だと思ってんだよ!!」
久美子「大丈夫なの~?」
大輔「大丈夫っ!!
インバ…ビュ…(バチン)
イン…バッ…ブンド…ブチョーだぞっ!俺は!!」
久美子「(小声で)噛んでるし…」
大輔「…」
久美子「…(虚ろな目)」
大輔「…(むぅ)」
秘書「…分かりました(微笑む)」
受話器を置いた、秘書は
ポスターの前に座る、杉山の横に立った。
秘書「先生…!」
杉山議員「…?」
秘書「「まつだ屋」のご主人が入院されたそうです…」
杉山議員「何!?倒れたのか?」
杉山の目を見つめ大きく頷く、秘書。
杉山議員「・・・(笑)」
翌朝ー
朝の光が射し込む工房に
一人佇む、久美子。
作業台の上は…
綺麗に片付けられていた。
久美子の脳裏には…
また古い記憶が蘇っていく。
久美子「お父さんが死ねば良かったのに!」
黙々と餡を煉る正さんの背中に、
久美子は出来立ての上用饅頭を投げつけた。
正さん「…」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
久美子「私、出て行くからっ!」
階段を駆け下りる、久美子。
正さん「何を言っとるんだっ!」
久美子「饅頭なんて、大嫌いっ…!」
正さん「・・・」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
窓に射し込む朝の光を浴びながら
久美子は、うつむく。
久美子の心に大輔の声が、響いた…
大輔「親父さんは…
お前が出て行ってから…
一日も休んだことが無いんだぞ!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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