建物や店頭のシーンは、大須観音近くにある店舗兼住宅のこの建物。
老舗和菓子屋『まつだや』は、2つの場所を使って撮影されました。
写真は撮影当時のもの。
撮影現場にいらしたスタッフさんがtwitterに挙げて下さったものです。当時は空き店舗でしたが、現在はタピオカ屋さんが入っています。
すっかり様相を変えてしまいましたが、有難いことに、店先にはこの掲示板が今でも置かれています。
そして、工房のシーンと階段のシーンは愛知県一宮市木曽川町にある、御菓子司『亀屋』さん。
亀屋さんについては、またあらためてご紹介致します。
🌸前回のお話🌸
松が描かれた緑の暖簾をくぐる正さん。
店先には、顔なじみの商店街の男性が待ち構えていた。
商店街の男性「正さん(頭を下げて)頼むよ!賛成派に回ってくれよ~!」
正さん「無理なもんは無理だっ!」
商店街の男性「ここだってあんたの代で終わりだろ!」
正さん「・・・」
商店街の男性「もう、そんなに続けられる歳でもないし…!」
不意を突かれ、言葉を失う正さん。
男性はそんな正さんに構わず畳みかけていく。
2人の声を聞き、階下に目を遣る久美子。
正さん「ダメだ!帰ってくれ!」
商店街の男性「正さん…!」
正さん「帰ってくれ…!」
商店街の男性をけんもほろろに追い出し、男性の背中を見つめると、お店の扉をピシャリと閉めた。
そして、一段ずつ階段を登る正さん。
脇に避ける、久美子。
正さん「なんだぁ?」
久美子「・・・」
正さん「お前には関係ない!」
吐き捨てるように言う正さん。
久美子「(ふぅ…)」
踵を返す正さんの背中に、聞こえないくらいに小さく久美子は息を吐いた…。
仁王門前には、観音様を守る仁王像が立ち並ぶ。
口を「あ」の字に開いた
阿形(あぎょう)。
口をギュッと結んだ…
吽形(うんぎょう)。
宵闇の中、一人手を合わせる正さん。
蝋燭の灯りが静かに揺れる…
そしてその頃、まつだやでは…
荷解きも後にした久美子と優太が床に就こうとしていた。
優太「お母さん…?おじいちゃんと仲悪いの?」
久美子「う~ん…」
目を逸らす久美子。
優太「…」
久美子「う…ん…昔ね…ちょっと、喧嘩しちゃったの…。」
優太「おじいちゃん…。怖いね?」
久美子「ちょっと怖かったね。(近づいて)でも優太には優しくしてくれるから!」
優太「・・・」
優太の腕をポンポンと叩いて、布団に向き直った。
久美子「さぁ、寝よう!
明日、新しい学校の転入手続きするからね。」
優太「(囁くように)学校…行かなきゃダメ?」
優太に向けた久美子の背中が強張った。
久美子「ダメっ!!」
優太「…」
久美子「元気よく挨拶すればいっぱい友だち出来るよ!」
俯く、優太…
久美子「う~ん…(笑って)そんな顔しないの~!」
優太の頬や、身体をくすぐる久美子。
優太「きゃははははは~」
久美子「(笑)」
久美子「ほら!寝なさい!」
2人の前には勉強机が見える。
恐らく、久美子が使っていたと思われるその机は綺麗なままだった。
真っ青な空に、まるで虹がかかるみたいに…
そして、『まつだや』の工房ではー
出来た種を、スケッパーでトーン、トーンと切り分け丁寧に丸める。
丸めた生地の中に、”まつだや”ご自慢のこし餡をひとつひとつ丁寧包んでゆく…
小さなへらと指先で、くるくると器用に生地を回し
あん玉は包まれ、まあるいお饅頭になっていきます。
粉が一面に敷かれた台の上に並べられたお饅頭は…
朝日に照らされ真っ白く輝いている。
静かな顔の正さん。
無心に作り続ける、正さん。
その後ろでは、
つやつやと真っ白く輝くお饅頭たちを蒸す蒸し器の湯気が立ち昇っていた。
久美子「おはようございます。」
正さん「・・・」
長い沈黙が流れる…。
久美子「(一歩前に進み)あの… 言うの忘れてたんだけど…。
八百屋の西田さんが『お正月用のお饅頭30個お願いします』って…」
正さん「・・・」
気まずい空気が流れる工房…。
久美子は、正さんの言葉を待つのを止めた。久美子「朝ご飯の準備しますね。」
立ち去ろうとする久美子。
正さん「いらん…!」
驚いて、振り返った久美子に…
正さん「優太の分だけ作ったれ…!」
それには答えず、久美子は工房を後にした…。
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